学力低下はなくなったのか?ゆとり教育が終わった現在の教育問題とは


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「学力低下はもうない!?」 - シリーズ私立中講座① - 

シリーズ私立中講座

学力低下はもうない!?

目次
  1. 2002年ショック -授業時間数1675時間の差―
  2. 答えは「否」! ―1972年と現在の授業時間数1014時間の差―
  3. 私立中と公立中の授業時間数 450時間の差
  4. 太刀打ちできない – 難関大学への現役合格

この記事では以下の内容が書かれています。

  • ・ゆとり前とゆとり教育時の授業時間は3年で「1675時間」の差
  • ・「脱ゆとり」路線の現在でもゆとり前と「1014時間」の差
  • ・私立中学の滝中と一般的な公立中では、1週間で「15時間」、3年間で「450時間」の差
  • ・なぜ私立中高では応用発展的な学習を進めるのか、それは難関大学・学部の現役合格に間に合わないから。
  • ・ゆとり教育は終わり、学力低下問題はもうないというのは幻想!

2002年ショック 
-授業時間数1675時間の差―

いまから16年前の2002年、学習内容「3割削減」の学習指導要領が小中学校で施行された。
1980年代から始まったゆとりカリキュラムにより学力低下批判が広がり、「分数ができない大学生」が話題となる中、さらに学力低下を悪化させる結果となり、マスコミでも「学力破壊ミサイル」と称して大きく取り上げられた。
その指導要領の下で学習した生徒たちは「ゆとり世代」と言われ、「あの世代は学力低下のゆとり世代だから」と揶揄されるに至った。
その状況は下記の主要教科の授業時間数の変遷からも容易に想像できる。

【小学校 各学年の国・社・算・理の授業時間数の合計】

1年 2年 3年 4年 5年 6年 合計
1972年 
ゆとり前
476 595 665 735 735 735 3941
1977年 
ゆとり前
544 595 665 665 595 595 3659
1989年 
ゆとり路線
442 490 665 665 595 595 3452
2002年 
ゆとり
386 435 525 560 515 520 2941
2008年 
脱ゆとり
442 490 580 615 555 560 3242
2017年 
新指導要領
442 490 580 615 555 560 3242

【中学校 各学年の国・社・数・理・英の授業時間数の合計】

中学校 各学年の国・社・数・理・英の授業時間数の合計

1989年から小学校では小1・2で社会と理科の授業がなくなり、2002年からは学習内容3割削減、学校完全5日制により授業時間も大きく削減され、現在50~60歳代の方と2002年の授業時間数(小中合計)を比較すると「1675時間」も違う。

答えは「否」! 
―1972年と現在の授業時間数1014時間の差―

答えは「否」! ―1014時間の差―

その後、国際的学力調査で日本の順位が低下したことから2004年に文科省が学力低下を認め、「脱ゆとり」路線が打ち出され、授業時間・内容が2002年以前の水準に戻ることになった。

では現在、もうゆとり教育の弊害はなくなり、高い水準の学力が子供たちに身に付く指導が行われているのだろうか。

答えは「否」! 1972年の授業時間数と比較すると、まだ「1014時間」もの差がある。
国際的学力調査を見ると、全体順位を落としてから順位を戻しつつあるものの、読解力は再び低下、科学・数学リテラシーは順位を戻しているものの、まだ以前の水準までには至っていない。

【PISA OECD 15歳児対象の学習到達度調査 日本の順位】

PISA OECD 15歳児対象の学習到達度調査 日本の順位

さらに、完全学校5日制、授業時間数の減少、学習内容の増加により、教科書内容を在学中に全てこなしきれない、進度が速いため授業内容を理解できないといった問題が生まれている。
公立中学校での学習進度は各先生に任され、定期試験の範囲は学校によって異なり、教科書の構成通りに授業が行われない、あるいは補助プリントが作成される、されないは教員によって異なり、中学校・教員ごとの指導に大きな格差があるのが現状だ。

私立中と公立中の授業時間数 450時間の差

もう一つ注目しなくてはいけないのは、私立中と公立中の格差だ。
まず授業時間数が違い、学習内容・進度も異なる。
下記の表は愛知県江南市の私立中である滝中の例だが、十分な授業時間が確保されていることが分かる。
主要5教科の1週間の授業時間数の3年間合計は滝中が「70時間」、公立中の標準時間が「55時間」、1週間で15時間の差が生まれている。
年間30週の授業があるとすると、3年間で「450時間」の差が生まれている。

【1週間の授業時間数】上段は公立中の標準数、下段は滝中の授業時間数

中1 中2 中3 合計
国語 4 4 3 11
5 5 5 15
社会 3 3 4 10
4 3 4 11
数学 4 3 4 11
5 5 6 16
理科 3 4 4 11
4 5 4 13
英語 4 4 4 12
5 5 5 15

他の私立中でも同様に豊富な授業時間数が確保されており、学校によっては土曜日の午前中の授業、あるいは7時限授業を行っている。
さらに中学入試を突破した高い学力を持った入学生のため、応用発展的な内容を、余裕のある授業時間の中で進度を速めて学習することができ、多くの私立中では中学生の内に高校の学習範囲に入っている。
これはいわゆる詰め込み指導で生徒に無理な学習を強いるものではなく、むしろ自然な学習の流れと言える。
次の東海中高の6年間の流れを見ると、公立中との進度の差が明白だ。また、理科と社会では専門科目に分けられ、それぞれ専門の教員が指導することも私立中の特色だ。

【東海中高 学習の流れ】

中1 中2 中3 高1 高2 高3
国語 中3中頃までに中学内容が終了
・中3から高2で高校内容が終了
大学入試に対応した内容。
英語
数学 中1・2で中学内容を終了 中3から高2で高校内容が終了
理科 中1~高1までは、学年で習う科目が決められている。
理科と社会という教科ではなく、中1から地理、歴史、公民。
物理、化学、生物、地学の専門の科目に分けて学習。
高2から文理選択にあわせて科目選択。
高3では大学入試に対応。
社会

太刀打ちできない- 難関大学への現役合格

太刀打ちできない

ではなぜ私立中高では応用発展的な学習を進めるのだろう。

なぜなら難関大学・学部の現役合格に間に合わないからだ。

中学校と高校の学習の流れは分断されており、中3の教科書終了レベルから高校の学習を始めていたら、高3終了時に難関大学入試の合格レベルの学力に到達するのは無理だ。
高校から私立中高一貫の学校へ入学した生徒は、私立中で学習してきた生徒に追い付くため、私立中の生徒とは別クラスで授業が行われ長期休暇中の補習も行われている。
高1は別クラス、高2から合流する学校が多い中、前述した滝中のように高3からしか合流しない学校もあり、それほど学力格差は大きい。そのため、高校から入学してくる生徒と合流しない、あるいは高校での生徒募集を行わない私学もある。
この格差は愛知県の公立高校入試問題と、私立中を併設している難関私立高校の入試問題からも読み取ることができる。
公立高校入試の問題は一部応用的問題が出題されるもの、基本標準問題が中心になっている。
一方、難関私立高校の入試問題は、3年後の大学入試問題を踏まえて、応用発展的な問題が出題され、公立高校入試に向けた学習だけではとても太刀打ちできない。
例えば、英語の入試問題を見ると、難関私立高校では長文内容に関する問題を日本語でまとめて答える問題がいくつか出題され、大学入試でも同傾向の問題が出題されるが、愛知県の公立高校入試の問題では出題されていない。
英語の読解力だけでなく、その内容を日本語でまとめる国語力、記述力も要求されるなど、高い学力が求められている。

ゆとり教育は終わり、学力低下問題はもうないというのは幻想!
学力低下だけでなく、私立中と公立中の学力格差が進行しており、今後いっそう拡大する可能性がある。

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